研究目的

本研究は、国民国家が形成される19世紀を中心とし、軍人のグローバルな移動による人的ネットワークと、軍事関連書の翻訳・流通・受容という分析視角から、軍事的学知を研究するものです。

国民国家の形成過程において、軍人の中には士官学校への留学、公使館付武官、観戦武官、あるいはお雇い外国人や軍事顧問団の一員として、外交官、政治家、法律家、教育者の顔を持ちながら、海外と交流した者がいました。19世紀を中心とした近世近代移行期の政治的・社会的・思想的環境からみると、当時の軍人は「戦争で戦う人」というだけではなく、実は学知の伝達者・媒介者でもあったと言えます。軍事関連書は、戦略・戦術など狭義の軍事学に限りません。戦争遂行のためには、さまざまな学知が必要とされたので、現代の学問体系で言えば、天文学、地理学、医学、数学、土木・建築学、法学、政治学、教育学、音楽、美術など、幅広い内容が含まれるのです。このような諸分野の学問知識が、軍人の移動と軍事関連書の翻訳・流通・受容によって広まりました。多様な学知が世界的に伝播していく歴史の登場です。

本科研ではフランス、ドイツ、オランダ、オスマン帝国、清朝、日本の近世・近代史を専門とするメンバーをそろえました。各国史の空間的枠組みを越え、また各国で異なる近世・近代の時間的区分も超えた共同研究を行います。19世紀の共時性の中で、軍人と軍事関連書(人とモノ)のグローバルな移動から、軍事的学知(学知)に光を当て、軍事史的観点から新たな世界史像を提起したいと考えています。日本語、中国語、トルコ語、オランダ語、ドイツ語、フランス語、英語の7カ国語を駆使した研究は、共同研究でなければ実現できません。研究メンバー間で情報を交換し、協力することで、実りある共同研究にしたいと思っています。